Travel Journal (ツーリストビジネス専門誌) http://www.tjnet.co.jp/ から留学と旅行について1月15日号から4回、Opinion欄で連載されます。 以下は第1回寄稿分です。
未来の旅人を育てる (その1)
留学という名の旅行需要
志をポケットに、夢はでっかく、根は深く。留学という手段で、今年も新たな気持ちで世界に羽ばたく若者がたくさんいる。
「かわいい子には旅をさせろ」「他人の釜の飯を食わせろ」「苦労は買ってでもしろ」「鉄は熱い内に叩け」。子育てに関することわざはたくさんある。どうして、かわいい子どもをあえて手離すのか。他人の家で食事をさせるのか。辛い思いをさせるのに、なぜお金を使わなくてはならないのか…。これらが説くものは、子供をいかにして“社会的に自立”させるかということに尽きる。
1 8歳以上は自己責任の取れる大人と言い切りたいものだが、大学在学中や高校卒業後に留学する子供たちの多くは親掛かり、準備は人任せ。とにかく英語さえ話せるようになればという遊学的留学も悪くはないが、私は小・中・高校生までの子供の留学を推奨している。教育で不易かつ重要なことは、子供を自立させることにあると確信しているからだ。
子供たちを取り巻く日本の環境に不安と矛盾と疑問を抱いているのなら、海外に旅させるほうが理にかなっている。日本の教育現場が荒廃し、いじめや不登校が深刻化している。それでも本当に学びたい子供たち、高い志を持つ子供はたくさんいる。彼らは、受験勉強だけで必修教科さえ削減する学校教育に嫌気がさしている。一方で、海外に目を向けると、好奇心を満たしてくる授業がある。転校や進学の選択肢も世界に広がる。海外の高校卒業後は世界の大学に進学可能だ。帰国後、帰国子女枠など、一般入試を回避して国内の一流大学に進学する学生も確実に増えている。
さまざまなメディアが子供の海外留学特集を組み、教育と費用の両面から現状を取材し紹介している。公立学校なら、学費・生活費・こづかい・交通費など、約2 0 0万程度の年間費用で良質な教育を受けられる魅力的な環境が手に入る。近年はスイスやシンガポールなどの世界的なプライベートバンキングだけでなく、国内の銀行も顧客サービスの一環として、個別に留学情報を提供するところが現れてきた。富裕層は子弟たちの留学先として、年間約4 0 0万~7 0 0万円かかっても、世界的なネットワークを持つ「ボーディングスクール」と呼ばれる私立の寮制中学・高校を選ぶ傾向にある。大半の教師が寮やキャンパス内で生活し、規則正しい寮生活を通してエリートの基本的条件である自己管理能力を高められるよう指導する。学習面では、少人数クラスで放課後も個別教育を受けることができ、スポーツ、芸術、地域社会へのボランティアなども積極的に経験させることが、優れた後継者育成の場として注目されているからである。
さて、子供の留学は(1 8歳以上の語学や大学留学も含め)、家族の旅行需要を生んでいる。一昔前は、留学費用を捻出するだけで精一杯、親までも海外旅行などとは考えられない時代だった。今は教育ローンを組んでいる家族でも、祖父母の援助を得るなどして、子供の卒業式には出席する傾向にある。経済的にゆとりのある家族は、留学前の学校見学、入学・卒業時・休暇中の旅行など、現地の子供を訪ねるのを理由によく旅をしている。
たとえば、北半球の学校群では9月に新学期が始まり、1 0月のペアレンンツ・ウイーク(保護者週間、学校訪問・親と教師の交流会)、1 1月のサンクス・ギビング(感謝祭、約1 0日間の休暇)、1 2月クリスマス休暇(約1 5日)、4月のイースター休暇(約1週間)、そして6月の夏休み(2~3カ月間)…と、子供を訪ねる機会には事欠かないほどの行事や休みがある。カナダでは5月にビクトリア・デイ(女王誕生祭5日ほど)を祝う学校もある。国や宗教によっても違いがあるが、家族はこれらの機会を使って旅行する。旅行先では、外国語を身に付けた子供たちが、家族とその友人に同行し、通訳として活躍する。松井やイチローの大リーグなどのスポーツ観戦、ミラノやジュネーブでのバーゲン時期や、パリのオペラ公演に合わせて年間スケジュールを組む親もいる。
子供の「やってみたい」という勇気と親の決断があれば、英語が全くできなくても、適切な準備と学校選択次第で、海外の初等・中等教育機関を有効に活用することは可能である。義務教育期間中に留学する小学生や中学生、そして高校生。彼らの中から、経済力だけでなく、文化力、人間的魅力を備えた、将来のリーダーが生まれる可能性は高い。そして彼らは確実に、未来の旅行人である。若者の海外旅行離れが進む今、留学ビジネスと密接に関わる旅行業界が、次世代の旅行者の育成と、彼らの自立の芽を育てるために負う役割は大きい。
(次号に続く)
【株】海外教育コンサルタンツ代表取締役社長浅井宏純
