Travel Journal
ツーリストビジネス専門誌 から留学と旅行について1月15日号から4回、Opinion欄で連載しています。 以下は29日、第3回寄稿分です。
未来の旅人を育てる その3留学業のモラルと使命が
問われている 01年の9.11事件を境に世界の流れは大きく変わった。平和産業と呼ばれる旅行業界が受けた深刻なダメージは、留学産業にも思わぬ影響を及ぼした。これを境に、事件や事故で受けるロスが海外旅行よりも少ない語学留学の分野に、旅行業界が大々的に参入してきたのである。テロなどの大事が起こった場合、旅行なら即中止するところだが、勉強なら仕方ないわね、という感覚が消費者にあるからだろうか。ビジネスモデルも確立しているので、多くの旅行会社が取り扱うようになった。消費者は旅行会社の窓口で、ホテルでも選ぶような感覚で、学校選びや入学手続きができるようになった。
このため、短期・長期の語学留学のマーケットを侵食された既存の留学業者の多くは、中・高校留学に進出してきた。結果、本来この分野を専門とする私たちEDICMのような零細企業にも影響がでるような玉突き現象も起こった。
今日の留学ビジネスは、コミッション(手数料)で成り立っている。語学学校に学生1人を紹介すると、学生が学校に支払う授業料の20%程度がコミッションとしてバックされる仕組みになっている。1人当たり年間100万円の授業料であれば、100人紹介して2000万円が入る。加えて、航空券の手配手数料や、保険料収入などが見込める。最近は「留学手続き手数料は無料」、あるいは数万円程度の手数料設定をするところが増えている。
留学熱の高い韓国では、語学留学を志望する人々の大半が留学業者を利用していると聞く。ソウルの留学業者に「日本人は自分で手続きしたがる人が多い」と話すと「信じられない」という反応だった。韓国では「無料手続き」は当たり前だからだ。自分で手続きを行ったからといって授業料は安くならないので、業者に頼んでも損はない。
私たちEDICMは、お客様自身からコンサルティング料を頂くが、学校や教育機関からはコミッションを受け取らない方針を貫いている。他社からもよく「信じられない」と言われるが、学生や家族最適の学校を選ぶため、金銭の授受による学校選定の間違いを犯さないよう心がけている。もっとも欧米の中・高校留学でコミッションを支払う学校はほとんどなく、正規の大学・大学院への留学に至っては、学生に奨学金を出すことはあっても、業者にコミッションを払う概念は存在しない。
世界で通用するたくましい日本人を育成する。そんな願いをこめて、私たち留学業者はより良いサービスを提供できるよう互いに切磋琢磨しているのだが、一方で旅行業務取扱主任者のような資格制度がないため、どこでも、誰でも開業できるのが現状だ。英語学校、人材派遣会社、出版社、塾、外国人英語教師、家庭教師など、さまざまな企業や個人が乱立しているのが今日の留学マーケットなのだ。残念なことに、営利のみを優先する業者もあることは否めず、授業料の持ち逃げや詐欺まがいの行為などの問題が絶えない。本誌(06年11月6日号)でも、留学斡旋業の不透明な契約などを問題視した公正取引委員会が、消費者保護のために動いたことが取り上げられていた。
業種もさまざまなら、留学カウンセラーと称する人々も多様だ。国際的に幅広く実績を積んだ教育コンサルタントもいれば、子供を留学させたことをきっかけに開業している親もいる。現在、留学業界の健全な活動を支援している非営利法人JAOS(海外留学協議会)が中心となり、留学カウンセラー資格制度の制定に向けて動いている。イギリスではすでに、ブリティッシュ・カウンシル認定公式カウンセラーの養成講座を開設し、カウンセラーの質の向上を図っている。イギリス留学を広めるための素晴らしい戦略だと思う。
今や、留学業のライバルは国内だけでなく、海外のエージェントも含まれる。
一昨年、シドニーで現地の留学エージェント約20社と会った。すべて、スタッフ数も数人程度の小規模な会社で、留学やワーホリ、国際結婚などをきっかけにそのまま現地に滞在して自宅で開業している日本人の個人業者や、日本語の古本専門店内に留学デスクを設け、店員が現地の日本人の留学相談に乗っているケースもある。シドニーを旅行中の日本人が、地元の無料日本語新聞などの広告を見てオフィスを訪ねたことがきっかけで、帰国後の申し込みにつながるそうだ。インターネットの普及もあり、日本から直接、現地の業者にアクセスするケースも増えている。日本に窓口を構えず、在住の友人を臨時スタッフとして置く会社もある。このような現地留学エージェントはホノルル、バンクーバー、オークランド、ロンドンなど、世界の主要都市で増加している。
若者の海外旅行離れが指摘されているが、留学や海外でのインターンシップを志望する学生は多い。留学の斡旋窓口が海外に広がっている今、“未来の旅人”を育てる国内の留学業は、その提供できるサービスの質と、背景にある使命を、厳しく問われる時代に来ていると思う。
海外教育コンサルタンツ代表取締役
浅井宏純