2007/02/14



訪日外国人客育成も
文化力が鍵に


(トラベルジャーナル2月5日号 オピニオン連載最終回)




人間は自分と違うものを排除しようとする特性がある。実際には、人は違いを求めて絶えず移動している。旅行、留学、技術、研究、企業、スポーツなど、日本から「出て行く」国際化、アウトバウンドは止まらない。国際観光振興機構(JNTO)の05年度の統計では、日本人出国者数1740万4000人に対し、訪日外客数は672万8000人。外国から日本に人が来る「入ってくる国際化」――インバウンドが遅れているのが現状だ。
 松坂大輔投手の米国・レッドソックス入りが決定した。大リーグは世界の野球選手を引きつけて止まない。それは、お金だけではなく、大リーグがアメリカ文化の象徴だからではないだろうか。文化大国のフランスでは、旅行者受入数は7150万人で日本の10倍以上。海外から人を呼ぶ鍵はどうやら“文化力”にあるようだ。
 最終回は「学校(教育)」と「食」、この2つの視点から人の動きについて考えてみたい。
 世界各国のボーディングスクール(全寮制中学・高校)は毎年、日本を含むアジア諸国を訪問して学生募集のためのフェアを開いている。私たちEDICMは、日本でのフェア開催直前の恒例行事として、各国から営業に集まってきた先生方を招き、楽しい食事会を開いている。月島でもんじゃ焼きを食べるという趣向で出席者を驚かせた昨年の会には50校、約60名の先生方が参加し、親睦を深めるとともに有効な情報交換の場となった。
 彼らは自校の誇りと自国の文化を武器としてプロモーションを展開している。大統領やノーベル賞受賞者などを輩出している世界的な伝統校や有名進学高校の入学担当責任者たちは「アジアから優秀な学生が一人来てくれればそれでいい。一人の学生が正しく母校の文化を身に付けて巣立っていけば、その人が良き見本となり、将来的に人(学生+家族)と金(寄付+親のビジネス・ネットワーク)が集まる」と熱く語る。そして自校の利益だけでなく、学生の母国の利益にもなると固く信じている。これらの学校は基金が潤沢で中には、100~400億円に達する。有効な資金運用で、素晴らしい学習環境と質の高い教師が多彩な教科を提供している。

 さて日本だが、海を超えて外国に学生募集のツアーに出かけるような発想、またそれだけの魅力をもった学校はまだなさそうだ。最近はトヨタ自動車、中部電力、JR東海が中心となり、世界の名門校をモデルに日本初のボーディングスクール・海陽学園が開校された例もある。また横浜市の中田市長はインド系インターナショナルスクールを誘致し、08年に横浜で開校することを発表した。画期的な動きだと思う。ITビジネスの発展にはゼロを発見した独自の文化を持つインド人の思考回路が欠かせない。学校設立を基点にインド人社員家族の教育環境を整備することで、横浜市は狙い通り、インド系企業の誘致を促進し、地域の経済発展と国際化につなげることができるだろう。
 教育のグローバル化が進み、大学進学率が高まっている中、アメリカや中国をはじめ世界で活躍するビジネスマン家族は、子供を通わせる良い学校がない日本には住めないと諦めているケースが少なくない。「あそこに我が子を通わせたい」と外国人に思わせるような文化力を備えた学校が日本に作られれば、優秀な人・物・金は自然と集まってくるだろう。
 さて次に「食」だ。昨年10月、サンフランシスコの北・サウサリートにある友人の寿司レストランでパーティが催された。20年間の努力が実り、ミシュランの1つ星に選ばれたからである。スシはすでに世界のグルメ、外国に行けば大都市でなくてもそこら中で見かけるようになった。かつてフランスは、フランス語学校の開設と料理の普及を通して、戦略的に「フランス」を広めたが、日本代表のスシは、おのずと日本を世界に紹介してくれていると言える。世界に類を見ない四季折々の豊かな自然に育まれた和食文化は、人に喜びを与えるだけでなく、健康にも大きく貢献している。食を通じて詩人や芸術家が新しい文化を開花させ、政治家が食事を共にすることで世界平和を守ろうとした事例は数多い。
 残念なことに、スシがあまりにも普及したため、生魚の扱いを知らない外国人までが見よう見まねで作るようになり、衛生面でも問題を起こしている。近年、海外のスシレストランの大半は韓国人や中国人などの外国人が経営している。「さくら」という名前なのに店の看板には赤い梅の花が描かれていたりする。日本食と称しつつも食材の扱いや調理法など、本来の和食とはかけ離れた食事を提供しているところも数多く見受けられる。こうした現状を憂い、農林水産省も正しい和食文化を普及すべく、ようやく活動を開始したようだ。
 外交とはその国の文化的総合力が基盤だそうだ。食、芸術、技術など、日本から発信され、海外で認められ成功している例は数多い。私たち一人ひとりの日本人としての誇り、品格、すなわち文化力が、日本を魅力的な国にするのだ。日本から世界に飛び立つ子供たちだけでなく、インバウンド、つまり日本に来たいと思う“未来の旅人”の育成も、この文化力がキーワードになるのではないだろうか。

海外教育コンサルタンツ



代表取締役浅井宏純