2007/02/19

スイスへ留学する、している中高生のみなさんとご家族に。
『黒い兄弟』(リザ・テツナー著; あすなろ出版)を読んだことがある人は多いと思います。あの風光明媚で世界のお金持ちの住むルガノ。私たちの学生がたくさん留学しているインターナショナルスクールTASISがあるところなのです。 いまでは信じられないことですが、19世紀ルガノ地方のスイスの少年達が人身売買で隣のミラノ(イタリア)で煙突掃除夫として過酷な労働をさせられる物語です。この本を翻訳した、酒寄進一さんの訳者あとがきです。 私たちが考えなければなれない、とても大事なことを書かれていましたので、ここでご紹介したします。

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『黒い兄弟』は、いまを去る150年以上前1830年ごろのスイスとイタリアを郡部にした、勇気と友情の物語です。貧しい農家の子で、毎日畑仕事で明け暮れる主人公のジョルジョ、両親をなくし、財産を親戚うばわれ、そのうえ命まで狙われたアルフレドとビアンカの兄妹そして貧しい家の子を煙突掃除の親方に売り飛ばす人買い。現代のわたしたちから見ると信じられないことばかり書かれていますが、かつて、ほんとうにこのような残酷な大人がいて、哀れな子どもがいたのです。

 それに比べると、現代日本の子どもは恵まれているといえるでしょう。物心ついたころには保育園や幼稚園に入園、つづいて小学校、中学校。親が幼い子どもに仕事をさせようとしたりしたら親は社会の非難をあびるでしょうし、子どもは働かずしてお小遣いやお年玉をもらって好きなものが買えます。しかしこんな恵まれた環境になったのは、何千年という人類の歴史の中でごく最近のことなのです。昔は「七つまでは神のうち」といって、七つになるまでは仕事が免除されていましたが、それらは大人と子どもの区別なく生きるために働かなくてはなりませんでした。「白雪姫」がまま母に追われ、森の小人たちのもとで家事をしながら暮らしはじめたのも七つのときです。こういうふうに書くと、ただのおとぎ話だ、ほんとうのことだとしても過去の出来事じゃないかと思う人がいるかもしれません。けれども、生きるために親が子を売る地域は現代の地球にもまだ存在していますし、軍隊に子どもをかり出す国まであります。いまこの瞬間にも地球のどこかで人買いに売られ、主人公ジョルジョと同じような境遇に置かれている子どもがいるはずなのです。ジョルジョとその仲間たちは、逆境をなんとか乗り越えることができました。もちろんかなりの幸運にめぐまれたわけですが、もしジョルジョたちの勇気とそれをささえる友情がなかったら、せっかくの好運もみすみす逃がしてしまったかも知れません。

わたしはさきほど、日本人の子ども時代は恵ままれていると書きましたが、実をいうと物が豊かになっただけにすぎないような、さびしい気持ちがすることもあります。たしかに人買いに子どもを売る親などもういないでしょう。しかし現代の日本では、ぬるま湯のような安穏とした平和にどつぶりとつかって、生きることへの活力や勇気は失っている子どもや大人が増えているのではないでしょうか。勇気と友情、それは現代人に最も欠けているものの一つであるように思えてなりません。

酒寄進一

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『黒い兄弟』は、1941年にスイスで出版されました。1939年から1945年まで第二次世界大戦の渦中でスイスは独立中立を保ち続けていた時代です。スイスは永世中立国として有名ですが、重武装の国家としても知られています。徴兵制度があり20-30歳の男子には兵役義務があります。(女子は任意)。多くの学校には緊急避難用のシェルターが装備されています。  あさい