AIと共に生きる力を育てる教育 ~ Tabor Academyの『教室内でのAI活用』~
あけましておめでとうございます。今年もエディクムのブログでは世界のユニークな学校やプログラムを紹介していきます。2026年第一弾は、アメリカ・マサチューセッツ州にある名門ボーディングスクール「Tabor Academy」です。
昨年10月27日(月)に、Tabor Academyが、留学を検討していらっしゃるご家族を対象に、とても興味深い教育サロンを開催しました。テーマは、「AI in the Classroom」(教室内でのAI活用)です。スピーカーは、組織戦略責任者のRachael Beare氏と留学生センター責任者のDavid Wellstead氏です。
「AI」という言葉を聞かない日はないくらい、AIは私たちの生活の一部になりつつあります。なんとなくAIは危険な存在で、出来るだけ子供達には使ってほしくないと思っていらっしゃる保護者の方も多いのではないでしょうか。
このセミナーは、実際に世の中は子供達にとって危険になっているのか、またAIは学習から排除すべきなのか、考えさせられる素晴らしいセミナーでした。
子供を取り巻く環境は危険になってきているのか
プレゼンテーションの中でとても興味深いデータがありました。アメリカで、「あなたは初めて1人で家から6ブロック以上離れた学校やお友達の家に行ったのは何歳でしたか?」と聞くと、保護者世代は、6~7歳くらいと答えます。一方、現代の子供たちは、12歳、14歳と答えるそうです。
保護者が子育てに不安を感じ、自分達が得てきたレベルの自立を子供達に与える準備が出来ていないという保護者の心理が背景にあるそうです。保護者は子供たちを危険から守らなければならないと強く思い過ぎているようです。
自立の経験が失われている現代の子どもたち
アメリカでは、1970年から毎年高校3年生を対象に継続しているリサーチがあります。あなたは、「運転免許を持っていますか?」「お酒を飲んだ事がありますか?」「異性とデートした事がありますか?」「働いたことがありますか?」とアンケートをとり、「はい」と答えた子供の推移をみてみると、全ての質問において比率は大きく減少しています。
保護者は、テクノロジーの急速な発展により、子供たちはかつてないほど早く成長していると思っていますが、このリサーチから明確なのは、実際には、自立する/成長する/独立するための基本的な行動の全てにおいて、子供たちはほとんど経験がないのです。
保護者が過保護になりすぎていて、実社会においては、安全に守られていると言えます。一方、大人になった途端、だれも守ってくれず1人になりどうすればよいのか分からないと感じる人が多いようです。AIについて生活・学習がどう変わったかを考える前に、子供達は、自分の経験に基づいて物事を正しく判断し、上手くやっていく事に不安を感じています。
AIを教育に取り入れる意義
ここで実際にTabor AcademyがどのようにAIを学習環境において考え、実践しているのかを伺いました。AIを教育の現場に取り入れる利点はなんでしょう。
- 個別化された学習:AIチューターなどを活用することで、生徒一人ひとりの理解度に合わせた指導が可能になります。
- 教師の業務効率化:事務作業をAIが補助することで、教師はより多くの時間を生徒と向き合うことに使う事が出来るようになります。
- 世界へのアクセス:ルーブル美術館などを実際には訪れる事が困難な場所にバーチャルで訪れて、「モナ・リザ」を至近距離から見る事が出来たり、AIと会話して言語学習をしたりと、世界中の学びに触れられます。
- 学びの楽しさと没入感:ゲーム性を取り入れたAI教材で、生徒の関心を引きつけ、楽しみながら自主的に学習することができます。
- デジタル・リテラシーの向上:AIを通じて、情報の真偽を見抜く力や安全なインターネット利用方法を身につけられます。
AI活用におけるリスクと課題
反対に、AIを活用する事のリスクは何でしょうか。
- 偏見とステレオタイプ:AIに「社長の画像」を検索させると男性ばかりを表示するなど、情報がストレオタイプされたり、偏見が強化されることがあります。
- 不正利用(チート)と依存:AIを使えば簡単に宿題や論文を作成できるため、「自分で考える力」が育たなくなるリスクがあります。
- プライバシーとデータの危険性:多くの人がアプリを使う際、個人情報を意識せずに企業に提供しています。特に子どもたちは年齢を偽ってアカウントを作ることもあり、**最初のデジタル行動が「嘘」**になるケースもあります。
- 倫理的判断の必要性:AIをどう使うか、使わないかを自分で判断できる「倫理観」が生徒1人1人に求められます。
AI使用の「信号機モデル」
AIを教育で使用する事の利点も課題も多いのですが、Tabor Academyでは、AIを排除するのではなく、「責任ある使い方を学ぶ教育」を重視し、AIの時代に、自分の力で考え、創造し、リーダーシップを発揮できる人材を育てる事を目標としています。
AIを、「自分の代わりに学習させるツール」ではなく、「自分の学びを助けるツール」として使う力を育てるために、下記の信号機モデルを導入し、クラスや課題毎にAIも使用方針を決めています。
| 区分 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 赤(Red) | Prohibited - AIの使用禁止 | 本を読み、重要点に線を引き、自分の言葉で要約する課題など、自分自身の視点が重要になる課題 |
| 黄(Yellow) | Permitted - 限定的にAI使用可(教師の指示に従う) | 歴史の授業で、AIに本の背景を調べさせるなど労力はかかるが自分自身で調べる事にあまり意味がない・学びがない課題 |
| 緑(Green) | Encouraged - AI使用を推奨 | 全員が同じ条件でAIを使って全員に平等な課題 |
| Required - AI使用が必須 |
自分の力で考え、創造し、困難を乗り切れる人材の育成
上記のように、Taborでは、AIを活用しながらも、生徒が創造性、倫理観、困難を乗り越える力、知的好奇心を自分の力で伸ばせるように指導しています。中高時代からAIを活用する事で、適切なAIの活用方法を自然に身につけていけるのでしょう。
AIは日々進化しています。勝つことのできない強力な存在だからこそ、敵にするのではなく、味方として共生していきたいものですね。
Tabor Academy(アメリカ・マサチューセッツ州)
Tabor Academyは、1976年に創立された名門校で、来年、創立150周年を迎えます。「Sesquicentennial」は、150周年という英語です!この学校は、海沿いにあり、「Floating Classroom」(海に浮かぶ教室)と呼ばれています。海洋科学や航海体験など、100年以上の歴史を持つスクーナー船「Tabor Boy」を活用して体験できます。日本の若狭や小浜(福井県)の学校と交流プログラムも行っています。
Tabor Academyにご関心のある方は、ぜひ、下記のサイトよりご確認ください。
Tabor Academyホームページ
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